競馬人物誌

ごみ箱探し男の巻

(秋華賞のファインモーション号)
これはたまに見かける風景なのかも知れない。その男はいつものとおり馬券を買い、いつもの
とおり決まった場所で我々と同じテレビ放送の下でレースの観戦をした。そしていつものとおり
外れた。いつもと違ったのはそのレースが審議になったのを男が知らなかったことである。
その男性はレース後すぐに馬券をごみ箱に捨て、次のレースの予想やら馬券購入の準備にか
かり、その場所から離れた。次のレースの準備を完了し、元の場所に戻ってきたときに、彼に
不幸が訪れたのである。

審議の結果が場内放送で発表され、連に絡んだ馬が失格となり、当たり馬券が変わってしま
った。その配当は中穴で美味しい馬券といえるが、不幸にも彼の捨てた馬券にあったというこ
とで大騒ぎとなる。「あ! 捨ててもうた」というや否や捨てた筈のごみ箱の中を、探し始めた。
しかし、これが大変な作業である。ごみ箱1個とは言え、捨てられた悲しい馬券はそれこそ膨
大な数があり、ジュースの飲みかすやらもあって、決して美しい光景とは言えない。

周りの知り合い連中も同情して、一緒になって探すのを手伝う。男は数万円が手に入るかどう
の瀬戸際であり、必死の形相である。その形相に女神も負けたか、遂には念願の馬券が見つ
かった。これに懲りて以後は一切馬券を捨てることをせず、外れ馬券といえども家に持ち帰る
ことにしたらしい。やがて家中が馬券だらけで、今は嫁さんの苦情に悩まされているとのこと。


[戻る]