競馬人物誌
盲目の馬券師の巻
(秋華賞のファインモーション号)
もう随分前の話である。まだ八幡ウインズが無い頃、小倉北方の競馬場まで足を運んでいた。
その頃の話であるが、ちょくちょく盲目のおじさんが、妻らしい女性に手を引かれ競馬場に姿
を見せていた。それが少しも不自然ではなく、競馬場に溶け込んでいたのを今でも思い出す。
彼こそが馬券の天才、盲目の馬券師なのでした。盲目のハンデは並大抵ではない。予想紙
で検討することは勿論できない。レースの微妙な綾を確認することもできない。
しかし、その馬券の腕は天才なのである。買った馬券は恐ろしいほどズバズバ決まる。換金
に行く奥さんは大忙しで、いつもにこにこ財布は膨らむ一方のようである。彼はオープン馬の
レースしかやらない。理由は彼の唯一の武器は記憶だけだからである。従って、彼の頭の中
は4歳オープン馬と古馬のオープン馬が強さの順位を持って記憶されている。彼はいつでも
それを取り出すことができる。さらに各々の休養、故障状態や体調までもが、入力されている
らしい。だからこそ数を絞ってオープン馬に限っているのである。
馬券は奥さんに依頼する。しかし、自分の予想が専門紙の予想に載っているときは強気の買
い。載っていないときは控えめの買いにするらしい。しかしながら、どちらの場合もビシビシ的
中させることには違いがない。彼は競馬場から離れても、聞いたレース放送を思い起こし幾度
も頭で反復する。彼にはそれが唯一の仕事であり、楽しみでもあるという。
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